あまのじゃくな彼女【完】
宏太と出会った頃、すでに両親は離婚して俺は「高遠」になっていた。母子家庭となった俺たちを気遣うよう、母の姉である伯母さんはしょっちゅう家に招いてくれた。
伯父さん書斎は当時格好の遊び場で、棚に飾られた色とりどりの缶・ボトルはとてもキラキラして見えた。
「隼人、今度新しい商品を出すんだ。お前ならどっちがいいと思う?」
その時伯父さんが見せてくれたのはボトル紅茶に合わせたロゴマークの案だった。
1つはどこかの紋章みたいな、当時の俺にしてみれば少し手の届かない高級感を感じるもの。
もう1つは小鳥が花を咥え、周りに小花が散っている可愛らしいもの。
それを見たとき、ふとよちよち歩きの小さな女の子の姿が頭をよぎった。あの子と一緒に飲みたいな・・・って。
そこで迷わず選んだ小鳥のシンボルマーク。
今となっては定番商品となったボトル紅茶のシンボルマークとして使われ続けている。
そうして昔から仕事・コーエンの事を聞かせてくれた伯父さん。自然と俺もコーエンへ興味を持ち、将来はコーエンに入りたいな・・・と漠然と考えていた。
とはいえ、母は高遠の次女。出戻ったとはいえ一度嫁いだ身だ。
長女である伯母の夫・伯父さんがすでに社長を継いでいたし、俺が跡継ぎになる事なんてありえなかった。
伯父さん夫婦にあの話をされるまでは。