あまのじゃくな彼女【完】

「お前が女と別れるときに綾江に頼んでたのは知ってる。それに何も言わずに協力するあいつも悪いけど・・・俺からしてみればただ利用しているだけにしか見えねぇぞ」

今度は明らかな怒りを見せ、身体ごと俺のほうへと向きを変えた。片肘をカウンターにつき、少し見下ろすような威圧的な視線を向けてくる。



「別れる」というのは正しくない。俺には付き合っているという意識はなかったから。
その時だけで良いという相手だけ選んできた。だけど、相手はそのつもりじゃなかったりして・・・
そんな時、綾江に頼んで彼女のフリをしてもらう。
綾江を見るとみんな驚くが、納得せざるを得ないのかすぐに引き下がってくれる。


そんな最低な役回りを俺は綾江に頼んでいた。


俺がそんな最低な事を始めた頃からだろうか。
焼き場から漏れる煙がゆっくりと流れるように、俺たちの3人の関係にもいつしか靄が立ち込めていた。


「綾江は良い理解者だと思ってる。家の環境も似たようなもんだし、学生の頃から気が許せたのってお前と綾江位だから」


綾江の実家は不動産業を営んでいる大きな会社だ。
綾江も周りのこびへつらいに小さなころから苦労していた。あの外見ではさもすれば、俺以上に苦労してきたのかもしれない。
その点、周りの変化に対する俺の動揺にも理解を示し、宏太と2人だけは気の置けない関係を続けてこれた。それに甘え過ぎていたのかもしれない。

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