あまのじゃくな彼女【完】
私よりは軽く、それでも乱れた呼吸を整えようと係長はフゥっと深く息を吐いた。
「逃げて、無いですよ」
「嘘つけ。そんなバレバレな嘘、鼻見なくてもわかる」
私の降参したような態度に納得したのか、捕まえていた手が解放された。
爽やかにふんわりセットされていたはずのねこっ毛は、私のダッシュに合わせたせいで一気に乱れペタッとつぶれてしまった。
乱暴にネクタイを緩め暑さをごまかしている様子は、係長から一気にシュンちゃんへと様変わりするようだ。
「山下が最近、め・・・吉村がおかしいっていうから。ようやくオフィス戻ってこれたから、話しようと思ったんだよ」
「話って、異動の事?」
「あ?まぁ・・・な。どうした何かあったのか?仕事のミス多いってお前らしくないじゃん」
「何かって?何もないよ」
何があったわけじゃない。
何も変わってなんかない。
ただ私が、知らなかっただけだ。何も。