あまのじゃくな彼女【完】

絞れそうな手拭いを投げやると、宏兄はタオルで乱暴に頭を拭いた。


「だけど珍しいな、お前が門下生の稽古出るの。学生以来か?」

「そうだね。仕事でこっちにはなかなか顔出せなかったから」


休日の朝稽古を覗けば、長時間こうして竹刀を握るのはかなり久しぶりだった。

お蔭でなまりきった身体に少しエンジンがかかり、その見返りに足裏には既に水ぶくれが出来つつある。


「なんだ、仕事落ち着いてるのか?」

「う・・・ん、そうだね。CMも完成したしキリが良い所かな」


綾江さんの名前は意図的に出さなかった。
とてもじゃないけど、動じずに彼女の話をするのは今の私には無理だから。


動揺する私を見れば、宏兄にまた〝剣道に逃げてる”って言われかねない。
まぁ・・・もうバレてる気はするけど。
宏兄はあえて触れないようにしてくれているようだった。

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