あまのじゃくな彼女【完】
その重い扉を開け暖かい空気が漏れでる方へと足を向ける。
その温もりとは正反対に、正面に鎮座する男性の雰囲気は冷え切ったものだった。
綾江さんに続き男性の正面へと立つ。
「君が吉村くんか?」
「は、はい」
がっちりとした体躯に、白髪交じりのウェーブがかった髪。大きなデスクで深々と腰を掛けるその姿からは威圧感が漂い、重く低いその声がより一層その存在感を増している。
入社式や社報で見たことがあるくらいで、一般社員の私がこうして対峙するのは初めてだった。
この人がシュンちゃんの伯父さん。
「黒澤の御嬢さんから聞いてるよ。隼人が随分とお世話になっているそうだね」
「おじさま、その呼び方やめてくれません?綾江で結構です」
私が返事をする間もなく、綾江さんが社長に食って掛かった。
社長相手に冷や冷やする所のはずなのに、余裕の社長と「至極当然だ」という顔の綾江さん。こんなやりとりも日常茶飯事なのだろうか。というか、2人は顔見知り・・・?
「うちの親と社長、付き合いがあるのよ」
私の逡巡を見抜くかのように、綾江さんが説明してくれた。
かの黒澤不動産の令嬢だ。そういう社交の場に出るのも珍しくはないのだろう。