あまのじゃくな彼女【完】
突然優しく肩を掴まれたかと思うと、長い黒髪が俯く視界に入ってきた。
「やめて。これ以上言われると惨めになるわ」
ゆっくり顔をあげると、綾江さんは眉を八の字によせ困った顔をしていた。泣きそうな、それでいて私を労るような優しい顔にも見える。
彼女の言葉が飲み込めず、私よりいくらか背の高い彼女をただ見上げる。
綾江さんからの次の言葉を待っていたけれど、期待したものとは違う冷たい声が私の意識を奪った。
「それで君は隼人をどう思っているんだね」
その鋭い声に思わず肩がビクッと動く。そんな動揺を綾江さんが見逃す訳はなく、なぜか更に優しい顔で見守られる。
嘘はつけない。社長や綾江さん、そして自分の気持ちにも。
すっかり顔をあげ正面から社長と目をあわせる。小さく息を吸うと心を決め、渇いた口を開いた。
「一番大切な人です」
怒鳴り散らされるか、鼻で笑われるのか。
社長の反応は予想したものとは違い、なぜか満足そうにゆっくりと頷いた。
「そうか。ならば君は、隼人のために仕事を辞めてもらおう」
その一瞬、視界のすべてが真っ黒に塗りつぶされた。