あまのじゃくな彼女【完】
コンコン、とオフィスの一角の扉を叩くと
「どうぞ」
柔らかい声が応じた。
その声に自分の体温が上がるのを感じる。ふらつきそうな足をぐっと踏んばり、女性の背中に続いた。
「部長、本日付で異動の方を」
「あぁ、ありがと。あとは大丈夫だから」
声の主は正面のデスクにはおらず、奥の書棚の前でファイルを漁っていた。脇には数冊ものファイルが積み重なり、今にも雪崩を起こしそうだ。
こちらに背を向けたまま女性に声を掛けると、案内してくれた女性は丁寧なお辞儀をして部屋を後にしてしまった。
去り際私に向けて軽く肩をすくめて苦笑したところをみると、部長のこれも日常茶飯事なのだろう。
にしても失礼な話だ。
背を向けたままで一向にこちらを見ようともしない。人の気も知らないで。