あまのじゃくな彼女【完】
あの日。社長と対峙した時。
「隼人のために仕事を辞めてもらおう・・・・・・〝今の”仕事をな」
神妙な面持ちから一変、いたずらっこのように嬉しそうな社長の顔。それを呆れながら目の端でとらえる綾江さん。
キョトンとする私をしり目に、嬉しそうに社長は語り始めた。
「あいつは昔っからうちの会社が好きでな。私の書斎で遊んじゃ〝大きくなったらコーエンに入る!”とよく言ってたよ。あいつなら絶対、この会社を背負って立つようになるとわかっていたからね。私も楽しみにしていた」
遠い目をして頬を緩めていた社長の目に、ふと悲しい影がよぎった。
「私達は子に恵まれなくてね。それなりに努力したが限界だった・・・それが始まりだ」
社長の奥さん、つまりシュンちゃんの直接の伯母さんはうちの専務だ。確かに子どもがいると聞いた事が無かったし、シュンちゃんから従兄の話なんて1つも聞いたことが無い。
「隼人に白羽の矢が立ってね、特に会長が熱望して。だけどアイツは・・・跡取りになるのを頑なに断った。きっとあいつなりに入り私達に気を遣ったんだろう」
そこまで一気に話すと少し気が抜けたのか、グイッと背もたれに体重を掛け社長は首の後ろに手を回した。
「だったら遠慮できなくしてやろう。私の事をどう思われようが、このコーエンを継ぎたいと思ってくれれば良い。そう思ってあれこれやってきたわけだ。おかげであいつは、周りの人間を信用できなくなってしまったみたいだがね」