あまのじゃくな彼女【完】
「あっ・・・!」
完全に油断していた足元、いつもより少し高いヒールがかくっと階段を踏み外し身体の重心が斜めに傾くのを一瞬で感じる。
やばいっ・・・と焦るその瞬間、後ろからグッと身体を包まれるとその広い背中に身体を預ける格好で動きを止めた。
「コラ。結婚式に血まみれになる気か。縁起でもない」
ふぅっと耳元でため息をつくと、そのまま内緒話をするように耳元で会話をつづけた。
「元部下の門出ぐらいゆっくり祝わせなさい」
「すっ、すみません部長」
シュンちゃんは手を緩めるどころか更にきつく抱きしめてきた。
「部長はやめろ、部長は」
「いや、ほら会社の人達ばっかりだし」
由梨の結婚式、元上司のシュンちゃんを始め招待客には会社の人間がたくさんいる。
そう、だからこれはやばいのだ。
「部長、あの手を・・・」
「ん?」
「いや、だからまずいんだって!もう大丈夫だから、手!」
階段の下の方でカメラを構えていた私達。みんなが主役に注目しているから気づかれずにいるけど、さすがにこの体勢は恥ずかしい。
「この期に及んで〝部長”って言うか。俺の彼女はつれないなぁ」
「んなっ・・・!」