あまのじゃくな彼女【完】
海外事業部に異動して1ヶ月。
ようやく誤解がとけた私たちは、彼氏彼女になった・・・はず。
断言できないのは仕事が忙しすぎて、甘いひとときを感じるのなんて後回しになっているからだ。
うっかり〝シュンちゃん”なんて呼ぶことなく、部長と部下として濃厚な時間を過ごしていた。
「部長すみません、この書類・・・」
「今度の接待なんですが、部長は・・・」
とかなんとか毎日言い続けていれば、今更名前を呼ぶなんて恥ずかしすぎる。
あの日のキス以来それらしこともなく、寂しいようなどこかほっとしたような。
複雑な乙女心を知らない部長殿は、急に公共の場で抱きついてくるし。
とはいえ、〝俺の彼女”って響きににやけそうになるのを必死に我慢した。
「今日のこれ、いいな。似合ってる」
私の訴えを無視して抱きつく体勢のまま、シュンちゃんは私のベージュピンクのドレスをツンと軽くつまんだ。
結婚式への及ばれもしばらくご無沙汰だった私は、どうにか作った休日に由梨とパーティードレスを買いに出かけてた。
普通、結婚式前の休日って忙しいもんじゃなのかな?と思ったけど、当の由梨は
「いいのー独身最後の休日は、芽衣子と女子会するんだから!」とノリノリで。
お言葉に甘えて、1日由梨を独り占めさせてもらった。
パーティードレスも本当なら長く着られるよう黒にしようと思ったのに、
「親友の結婚式なんだから、もっと華やかにしてきなさい!」
と、即刻却下。
由梨が見立ててくれたベージュピンクのドレスは、Aラインのキレイ目。だけどウエスト部分にリボンがあしらってあるもので、絶対自分じゃ選ばない。
強引に試着まで持ち込まれ店員さんにも乗せられて、しまいには
「係長・・・じゃない、部長にも見せてあげるんでしょ?」
とニヤつく由梨の口車にまんまと乗せられた。
たまには良いかな、って思っただけなんだけど。