あまのじゃくな彼女【完】
「それで何であんなダッシュしてたわけ?」
「そ、それは用事に遅れそうだったもので」
言えない。あなたが彼女といちゃついてるのを覗いてました!・・・なんて。
「ふーん。その用事はもういいの?」
「あ、はい。また今度で大丈夫なので」
「そう。それじゃ俺とデートしよ」
「あ、は・・・えっ!?なんでですか!?」
なんでそうなる!?
冗談じゃない、一刻も早くこの男と離れなくては。
「だってねぇ。せっかくの休日にこうして吉村さんと会えたわけだし。金曜日、俺の事散々無視した分付き合ってくれてもいいんじゃないの?」
・・・げ、無視してたのばれてる。
「無視なんてしてませんって。デートだなんて、そんなの係長の彼女に申し訳ないですよ」
「彼女?俺、彼女なんていないよ?」
「何言ってるんですか。ロングヘアの美人さんが・・・」
「やっぱり覗いてたんだ?」
両肘をテーブルに着いた上に顎をのせ、口元をにまーっと半円状に嬉しそうに笑う。
やられた・・・。
「んな・・・!騙しましたね、係長!」
「騙してなんかないって。あいつは彼女なんかじゃないし」
「別に隠さなくったっていいですよ、私には関係ないですし」
「関係ないってひどいな、俺吉村さんにプロポーズしたでしょ?」
「冗談!彼女がいるような人、ごめんです。からかうならもっと若い子にしてください」
かあぁっと顔だけ体温が上がるのがわかった。
“プロポーズ”で、とっさにあの夜のキスを思い出してしまった。
無かったことにしたかったのに、この男は堂々と地雷を踏んできた。