あまのじゃくな彼女【完】
3:
残業もそこそこに、クリーニングやへ行く算段もついたころだった。
「せんぱい」
ばさばさまつ毛の千葉さんが、珍しくメイクも崩れている。
「なーに、またデータの場所とかわからないの?」
彼女には珍しく本当に少し青ざめた様子だ。
「あの、私研修レポート提出期限変わったの知らなくって・・・それ明日の朝までで」
「うんうん」
「昨日・・・山下さんに接待言われて」
「うんうん」
「美味しいごはん食べられるって・・・言われて」
「うんうん」
「山下さん、おこら・・・」
つまりは急ぎの仕事が残っていたのに、うっかり接待同行を快諾してしまったってわけだ。
「あーそれで、研修のレポートは?間に合うの?」
「今夜残れば間に合いそうです。あの、よし・・・むらさ」
「いいよ、私が代わりに美味しいごはん食べさせてもらっちゃうから」
ふふっとおどけて笑うと、千葉さんがほっとしたような泣きそうな顔をした。
「ほんとうにすみません。私が言われた事なのに」
殊勝な態度を見ても、千葉さん思ったほど嫌な子じゃなさそうだ。
いくら要領がよくても、まだまだ新人だ。これくらいのフォローはしてあげなくては。
「今度からはちゃんと締切確認するようにね。山下さんには明日、ちゃんと謝って」
「はい。連絡入れときます」
忙しい山下さんとはおそらく現地集合なのだろう。
何度も頭を下げる千葉さんをデスクへ促すと、送られたメールに目を通す。どうやら今日は、例のCMの撮影候補の古民家オーナーとの会食らしい。
山下さんも居るなら心強い。朝から散々だったけど、美味しいもの食べて気分変えよう。
待ち合わせの料亭へと1人むかった。