あまのじゃくな彼女【完】
「君、ちゃんと飲んでんのか。えぇ?」
「はい、戴いております」
やんわりお酌を断ろうとするがそうはさせてくれそうもない。
このでっぷりおじさん、次々とおちょこを空け早々に出来上がってきたようだ。下卑た笑いが非常によくお似合いで、お酌の度にちょいちょい手を触ってくるのも気のせいじゃないだろう。
部屋に入って30分は経ったと思うけど、山下さんはまだ来ない。早くしてくれないと、私がテカったお顔に一発めり込ませかねない。肉厚なお腹でもいいんだけど。
ピンチヒッターとはいえ仕事は仕事、私だって責任もってやり遂げたい・・・けど。
「大体あの山下って男は厚かましいにも程がある!使用費まけろだなんて、一体うちがどれだけ面倒な管理を続けてきたんだと思ってるんだ。いくら自分が手柄をたてたいからってなぁ。うちの娘にも色目使って、これだから仕事のできん男は、なぁ?」
酒臭い息をはぁっと吐き出しながら同意を求めるよう私にずいっと顔を近づける。
ははは・・・と乾いた笑いで適当な相槌をうちながら確信していた。
山下さんはそんなアホではない。研修期間、彼がどれほどストイックで自分に厳しい人かを嫌というほど知らされたからだ。顧客のために休日返上は当たり前。その上後輩の仕事も嫌な顔せず手伝ってくれるし、「俺もこうやって育てられたからなーお前ら出世払いな!」なんてさわやかに言ってのける彼が、仕事で色目を使った所を私は一度も見たことがない。
どうせでっぷりおじさんの娘も、山下さんの人たらしにあてられた口だろう。