あまのじゃくな彼女【完】
スパッッ
勢いよく何かが開く音とともに、スッと畳を踏む音がした。
「これはこれは坂上さま、大変お待たせしてしまい申し訳ありません」
「なっ・・・なんだ、お前は!」
「最初の打ち合わせの際にお邪魔させていただきました、係長の高遠です。覚えておいでですか?いやぁ、お宅へお迎えにあがるとお伝えしたはずでしたのに、ご自宅に伺った山下が行き違ってしまったと大層焦っておりました」
「なっ、わしはそんなこと聞いとらんぞ」
「さようでしたか。迎えを待つよう奥様がお話しくださったようですが、念押ししなかったこちらの落ち度です。遅れて申し訳ありませんでした」
そこまで話すと微笑みを固定させたまま、係長が私へ一瞥をくれた。
「おや、吉村さんは足でもしびれたのかな。彼女は少しおっちょこちょいな所がありましてね、坂上様にもご迷惑おかけしませんでしたか」
「あ、あぁそのようだね。君、もう足はだいじょうぶなのかね」
ゴホンとわざとらしく咳払いし、坂上は元の座椅子へとかけなおした。
「あ、はい」
「山下が奥様に会食のお話をしたところ、吉村が来ることをご存じなかったようで。せっかくの機会です、奥様もこちらへご招待させていただければと思いまして。今山下が案内している頃かと思いますよ」
「なっ・・・な、に」
「女性は女性どうし、話も盛り上がるでしょう」
「わっ、わしは用事を思い出した!これで失礼する」
「それはそれは。しかし坂上様、肝心な予算打ち合わせができておりませんが」
「しらん、勝手にしろとあの山下に伝えておけ!!」
慌てて部屋を飛び出す坂上の後ろ姿に身体を向きなおすと、係長は最敬礼とも言える丁寧な一礼をおくった。