あまのじゃくな彼女【完】
「あの、係長」
用は済ませた、と立ち去ろうとする高遠係長を呼び止めた。
「うん?」
「先日は大変ご迷惑をおかけしました。あの、助けていただいて本当にありがとうございました」
「いーえ。部下を守るのは上司の仕事でしょう」
会議と聞いていたが実際は外回りだったのだろうか。手にしていたビジネスバッグをソファへ乗せると、その脇へふぅっと腰かけた。
「あ、係長も何か飲まれますか。お詫びにご馳走させてください」
「そう?んじゃお言葉に甘えて」
指定されたブラックコーヒーを手渡すと、係長は受け取った手の人差し指を使い片手で器用に缶をあけた。ぐいっと飲むと自然とため息がでる。
「外回りだったんですか?」
「うん、まぁそんなところ。ちょっとむこうがごねたから、ご機嫌とってきた」
まじまじと観察するわけにもいかず、顔の向きは固定したまま視線だけで係長の方を見る。
眉根を寄せて話す様子からは疲労感がにじみ出ている。いつも顔色変えずに淡々と仕事をこなす係長にしては珍しい。