あまのじゃくな彼女【完】


お疲れなんだなーふむふむ・・・と考えているところで、ふと気づいた。


「あ」

「ん?どうした?」

「今日は敬語、じゃないんですね」

わかった!という感情そのままに、顔の横でピンと人差し指をたてた。



「先日は状況が状況でしたし、私が係長のお怒りをかってしまったからだとは思うんですが。仕事の現場で珍しいなぁなんて思いまして。いや・・・私が悪いんですけども・・・はい。すみません」



余計な事を言ってしまった、と後悔してもすでに遅い。尻すぼみになりながらもどうにか言い切ると、係長は嬉しそうに語った。




「なに、敬語がいいの?吉村はそういうのが堅い男が好きなわけ?」

「何言ってんですか、違います!だって係長が言ったんですよ?休日のことは秘密にしてほしいって。だから職場ではわざと敬語を続けていたんでしょう?それなのにどうして」


まったくもって腑に落ちない。なんせこの男、職場では敬語を決してやめなかった。おそらくそうすることで切り替え、会社の人間との距離感を保っていたのだろう。

それがなぜ、急にタメ口になったのか。



「うーん、もう必要ないかなって」

「あ、じゃあ仕事と休日の使いわけもなしですか?」

「いや、それは無理」


ちぇっ・・・なんだ。

秘密を守るという謎のプレッシャーから逃げられるとふんだが、そうではなかったようだ。正直秘密の事自体忘れていたけれど。



< 71 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop