あまのじゃくな彼女【完】
お疲れなんだなーふむふむ・・・と考えているところで、ふと気づいた。
「あ」
「ん?どうした?」
「今日は敬語、じゃないんですね」
わかった!という感情そのままに、顔の横でピンと人差し指をたてた。
「先日は状況が状況でしたし、私が係長のお怒りをかってしまったからだとは思うんですが。仕事の現場で珍しいなぁなんて思いまして。いや・・・私が悪いんですけども・・・はい。すみません」
余計な事を言ってしまった、と後悔してもすでに遅い。尻すぼみになりながらもどうにか言い切ると、係長は嬉しそうに語った。
「なに、敬語がいいの?吉村はそういうのが堅い男が好きなわけ?」
「何言ってんですか、違います!だって係長が言ったんですよ?休日のことは秘密にしてほしいって。だから職場ではわざと敬語を続けていたんでしょう?それなのにどうして」
まったくもって腑に落ちない。なんせこの男、職場では敬語を決してやめなかった。おそらくそうすることで切り替え、会社の人間との距離感を保っていたのだろう。
それがなぜ、急にタメ口になったのか。
「うーん、もう必要ないかなって」
「あ、じゃあ仕事と休日の使いわけもなしですか?」
「いや、それは無理」
ちぇっ・・・なんだ。
秘密を守るという謎のプレッシャーから逃げられるとふんだが、そうではなかったようだ。正直秘密の事自体忘れていたけれど。