あまのじゃくな彼女【完】
カクッと僅かな揺れと一緒に、エレベーターは止まった。両側にゆっくり開く扉の隙間から見覚えのあるねこっ毛がちらりとのぞいた。
「お疲れ様です係長」
「おぉお疲れさん」
ふんわり微笑みを湛えていた顔が、私だと認識した瞬間に崩れた。分かりやすい切り替えにおもわずプッと吹き出しそうになる。
「帰り?今日は早いな」
「はい、予定があるので」
「へぇ・・・デート?」
高遠は腕を組み壁にもたれるようにすると、長い脚を軽く交差させニヤリと笑う。
「違います。実家の道場の子ども達とご飯に行くんです」
最近の係長はこの調子で、2人になる事があれば完全にオフモードだ。適当な事を言われるのにもすっかり免疫ができた私は動揺する事も少なくなった。
もし会社の人に見られたら・・・って勝手に心配してしまうけど、当の本人は飄々としている。