あまのじゃくな彼女【完】
約束の時間から30分ほど遅れてしまった。
破れかけた赤提灯には掠れた文字で『みどり』と書かれ、昔と変わらず軒先で大きな存在感をはなっている。中からは豪快な笑い声が漏れていた。
「こんばんはー」
「あらめいちゃん久しぶり!」
出迎えてくれたのは、お店を切り盛りするおばさんだ。少しふっくらとして、お月様みたいにまん丸の優しい笑顔は昔とちっとも変わらない。
『みどり』はおばさん夫婦が切り盛りしていて、焼肉以外にもおばさんお手製の煮物や切り干し大根も美味しい。焼肉は食べずにお惣菜目当てのお客も多いくらいだ。
「みんなすっかりできあがってますね」
店内奥の座敷スペースでは、子どもたち用と大人たち用とでスペースが二分されているようだ。子どもたちの方は無我夢中で煙のあがる鉄板をつついている。一方大人たちの方と言えば、お肉はそこそこにお酌が行きかい既に赤い顔がちらほら。
予想通りのありさまで思わず笑ってしまう。