あまのじゃくな彼女【完】
「宏ちゃん達はあっちよ」
見れば座敷の上座にあたるカ所に父・母が陣取り、少し離れたカ所では宏兄がげらげらとビール片手に騒いでいた。
礼を言うとひとまずお母さんの所へむかった。
「遅くなってごめん」
「あら芽衣子、お疲れ様。仕事は大丈夫だったの?」
「うん、どうにか都合ついたってところかな」
よいしょっと腰を下ろすと、温かいおしぼりで手を拭きようやく一息つけた。
「どうにかってお前、周りに押し付けてきたわけじゃあるまい」
私のほんのささいな言葉尻も逃さないよう、途端にお父さんから探りをいれられた。
お父さんは厳格な人だ。私にとっては剣道の師匠でもあり、そのイメージは余計に強い。曲がった事が大嫌いで、人様に迷惑をかけるということを極端に嫌っている。
道場に入りたての子なんかは、お父さんの恐ろしい形相や厳しい態度におびえてしまう。だけどそれも最初だけで、昔の私同様に「よし、今の打ち方だ!」ってお父さんに嬉しそうに褒められると、なんだか辞められなくなってしまうのだ。
「違うよ違う。明日、自分でちゃんと終わらせられそうだったから来たの」
「ん、そうか。自分の仕事は責任もってやらんとな」
ぼそぼそっとそうつぶやくと、目の前のキムチをちびちびつまみ始めた。