あまのじゃくな彼女【完】
「おい、芽衣子こっちだこっち」
2階席で陣取っていた宏兄が、長い手を大きく振りながら呼んだ。
試合の無い子どもたちの引率として、宏兄がしきっているらしい。試合の予定表とにらめっこしながら、次々子どもたちに指示を出している。今日は小学生の部がメインだからか応援の保護者も多いみたいだ。
「お疲れさま」
「おう、お前も引率手伝えや!ほい、次の試合のヤツはトイレ済ませてこーい」
はーいと威勢の良い返事とともに、きゃっきゃと騒ぐ子供たち。今回が初めての試合となる低学年の子たちは、さながら遠足のようにはしゃいでいる。
一方、大会にも慣れた高学年の子たちは試合に集中しようとややこわばった表情だ。その中に大地を探すけど見当たらない。
「タケさん、大地は?」
保護者席に座っていたタケさんに声をかけた。
「あいつなら第1試合だからな、もう下降りたぞ」
「え、うそ。もう始まっちゃうの」
しまった。
寝不足で家を出るのが予定より遅れたせいだ。試合前に大地に声を掛けてあげたかったけど、間に合わなかったみたいだ。
「大地、大丈夫そうだった?」
「いんや、ガッチガチで手足一緒に出して歩きよったわ。まぁ負けることも経験よ」
ははは、と笑いながらも緊張でガチガチの大地が簡単に想像できた。私への強気な態度とは反対に、大地は緊張しいだ。昇級試験でも、毎回ガッチガチだ。
やっぱり声かけてあげられればよかったかな。タケさんの予言通り負けないといいんだけど。
あとは本人の実力次第。タケさんの隣の席に腰を据えると、みんなと一緒に試合開始を待った。