けれども何も、始まらない
あじさい公園はその名の通り、公園の植え込みに紫陽花が植えられている公園だ。今は紫陽花が咲く時期ではないため、普通の公園でしかない。遊具はブランコと滑り台と砂場のみ、隅にはベンチが二つ設置されている。
公園には誰もいなかった。話を聞かれることもなく、俺と理一さんが一緒にいる様子を見られる心配はない。
一人分の間は空けて俺と理一さんはベンチに座った。理一さんは真っ直ぐ前を見て黙り込んでいる。だから俺から話を振らなければならないのだが……。
「……あの、すみません、何から訊けばいいのか判んないんで、出来れば理一さんから話して欲しいなって……」
理一さんの気遣いはありがたいが、俺は自分が何を言えばいいのか判らなかった。訊きたいことは確かにあるが、どれから訊けばいいのか判断出来ない。
「あぁ判った、それじゃあ」
早速、という感じで理一さんは俺を見た。俺の頭に浮かんでいる考えを読み、答えるのだろう。理一さんは一体何を言うのだろうか。
「――俺と話したからって自分が特別な能力に目覚めるとか、街の裏側で暗躍する存在と出会うとか期待するのは意味ないから。俺はただ見えるだけで、それ以外の周りの環境はほとんど同じだから」
「え……」
初めに理一さんが口にしたのは、俺の期待に対する答えだった。