けれども何も、始まらない
俺自身が特別な能力に目覚めるというのは、今まで期待したことはなかったとは言えない。普段意識することではないとはいえ、漫画を読んでいて俺にもこんな能力が……とか思うのは、俺だけではないだろう。
例えそうでなくても、能力が存在することを知ったため、通常なら関わることのない人や組織と共に行動するとか、そんな特別なことが身に起こってほしいと考えるのも、俺だけではないはずだ。今の俺にとっては、コンビニ強盗を撃退することよりも現実味がある話だ。
つまり、理一さんの言葉は、俺の淡い期待を打ち砕いたということだが。
「本当にないんですか?」
だからといって、あっそうですかと素直に諦める訳にはいかなかい。何しろ理一さんは本物の能力者だ。それこそ、普通に生きていれば関わることのない存在に出会える可能性は高い。平凡でしかない俺と比べて格段に。
「残念だけど、本当にない。それでも敢えて言うなら、『今のところは』ってぐらい。俺は謎の組織だとかの存在は全く知らないし、他の能力者にも会ったことはない」
「そうなん、ですか」
類は友を呼ぶという言葉があるように、理一さんのような能力者の周りには、同じく能力者が集まるものだと思っていたのだが。