けれども何も、始まらない
「……それじゃあ、理一さんは自分が特別だってこと……人の心を読める能力があるってことは、自分でどう思ってます?なければ良かったとか、そんな感じのことは?」
自分が能力者であること以外周りは変わらないというのなら、特殊な自分自身のことはどう思っているのか。
能力者に対するよくある質問と言っていいだろう。しかし俺を見ていない理一さんにとっては予想外だったのか、しばし沈黙して、そしてポツリと呟いた。
「そういうもしもの話は……」
俺に聞かせるつもりはないというような声量だった。俺では理一さんの心情は判らないから、言ってくれるまで待つしかないのだが。
「……そうだな。俺の能力が限定的なもので、これからなくなるとしたら、まあ受け入れるしかないよな。でもそしたら俺は生き辛くなるだろうな。俺の常識が崩れるんだから」
呟きの続きではなかった。自己完結したらしく、先程の言葉と脈絡が合っていない。独り言のようなものだったから仕方のないことだろうが。
「生まれた時から能力がなかったら、俺がこうなることはなかっただろうから、今より生きやすかったんだろうな。――ってぐらいしか思えないか」