けれども何も、始まらない

最後は自分自身に問い掛けるような口調だった。理一さんは、自分のことに関しては断定出来ないのか。


「――だから、能力があって良かったのか、なかった方が良かったのか、俺には判らない」


そう結論付けられてしまえば、俺は何も言えなかった。ここで『能力がなければ良かった』って言ったら、俺はその意見に反論したかったのだが。


「俺から何か話した方がいいか?」


うんともすんとも言わなくなった俺に痺れを切らしたのか、理一さんはそう切り出した。


「すみません、お願いします」


助かった。願ったり叶ったりの申し出だ。


言いたいことはあった。それは、小説や漫画を読んでいて、ある特定の登場人物達に対して抱く不満。けれども言えない。それは理一さんに言うべきものじゃないから。
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