けれども何も、始まらない
平日の夕方、本来なら部活動がある時間に、俺と友人二人は綾人(あやと)――理一さんの弟――の家で過ごしていた。今はテスト週間で、部活動はなかった。今日の集まりはテスト勉強のためだったが、いつの間にかゲームで遊ぶことに熱中していた。後悔は後でする。
大して勉強は出来なかったが、本気で勉強をしたかったら今日の集まりはなかった。テスト週間は、部活がないから遊べてラッキー、という認識だ。
そろそろ帰るかということになり、俺と二人は綾人の家を出た。家の方向が俺と二人とは異なるため、五分もしないうちに俺は一人で歩くことになった。
歩道を歩いている俺の反対側からこちらに向かって来る人がいた。擦れ違うまで数メートルの距離になったところで、理一さんだと判別出来た。
理一さんが高校に進学してから初めて会った。学ランを着てリュックを背負っている。中学校も学ランだったから、見た目はあまり変わらない。目の下の隈も、右頬の中央にある黒子も前に見た時と同じだった。