けれども何も、始まらない

会釈ぐらいはするべきか、それとも気が付かなかった振りをして無視するか。擦れ違うまでの僅かな時間に考え、あと数歩となったところで無視をしようと決めた瞬間、


「こんにちは」


向こうから挨拶があった。立ち止まって、しっかり俺を見て、けれども笑顔はなく無表情だった。


突然のことに面食らい、俺も立ち止まった。


「あ、どうも」


まさか、予定通りに無視をする訳にはいかない。驚きながらも返答をした。


にしてもまさか、理一さんから挨拶をしてくるなんて。学校で擦れ違った時はお互い無視をしていた。だから今回も、とは思ったし、そもそも理一さんが積極的に行動するとは思わなかった。


クラス、もしくは学年に一人はいる根暗なボッチ、というのが俺の理一さんに対するイメージだった。それは俺だけでなく多くがそうだ。弟である綾人もそう思っており、事あるごとに理一さんという兄の存在を疎ましく思っている素振りを見せている。弟の友人に気安く声を掛けてくるタイプではないと思っていた。
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