けれども何も、始まらない
「はぁ、それで、何の用ですか?」
「……俺の友人は面白いことが好きで、だからあまり話したことない奴とちょっと話してみようと思って」
話の脈絡が噛み合っていない。『だから』の使い方が間違っているのは気のせいではないだろう。
理一さんの友人は面白いことが好き、そこはまあ良しとして。あまり話したことない人、つまり俺に話し掛けた。……どうしてだ。ろくに話もしたことがない俺が、理一さんにとって面白い人とでもいうのか。それとも綾人が俺のことを言ったのだろうか。
今まで全く会話をしたことがなかった人だから判らなかったが、なかなか変な人だ。明日にでもこの出来事を綾人に愚痴るか。
「出来たらそれは止めてくれ。綾人は俺を嫌ってるから笑い話にはならないだろうし、不機嫌になるから」
「……あれ」
俺、口に出していたっけ。いや、そんなことはないはずだ。漫画とかであるような、心の声が実は言葉にしていて相手に聞こえていた、なんてことはない。