けれども何も、始まらない
《二》


理一さんが能力者(理一さんに倣ってそう呼ぶことにした)であることは事実らしいが、案外冷静に受け止められた。日常の中に組み込まれたからか。これが例えば能力を使っての戦闘中だった、とかならきっと混乱していただろう。


理一さんの後に続いて俺は歩いている。先に歩き出したのが理一さんだったこともあるが、理一さんの視界に入らないように、というのも理由の一つ。説明はないが、視界に入らなければ思考を読まれることはないだろう。何を考えているか知られるなんて、避けたいに決まっている。


「黙ってるって言ったけど、これだけは先に言っとくから。俺は誰が何考えていても気にしない。そういうものだって割り切ってる」


「……え」


「俺は相手を見なければその人の考えは判るけど読めない。今は見てないから判らないけどまあ、大体そんなこと考えてるんだろうなって予想は出来る。――だから、これだけは言っておくから」


「……そうですか」


人の心を読む能力をもった人を相手にすれば、大抵はそう考える。確かに理屈は通っている。振り返らずにわざわざそう言ったということは、俺に対する気遣いということだろう。いい人だと思っていいはずだ。
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