けれども何も、始まらない
「例えば、自分が行ったコンビニにたまたま強盗がやって来て、それを自分が撃退するっていうのはよくあるな」
「――」
唐突に理一さんが放った言葉は、俺の心に深く突き刺さった。喉の奥で声が出そうになった。
「……そういうの、どれぐらいの人が考えてるんですか?」
「結構いる。誰かは言わないでおくけど」
「具体的には、こう、どんな感じで考えてたり?」
「大体は漠然としてるな。具体的に何を使って撃退するとかまで考えてるのは、あまりいないな。空想の範囲内、妄想っていうほどじゃない」
「…………」
該当者はここにいる。俺が正しくそうだ。
「……そういうのは、気にならない――笑ったりとか、しないんですか?」
「強盗じゃなくても、そういう英雄志望やヒロイン希望は結構な人が考えてるし、一々笑うほどのことじゃないな」
能力者の理一さんと一般人の俺とでは価値観は全く異なる。理一さんがそう言うのなら、そうなのだろうと頷くしかない。