5日だけの二人
桐山の言葉は至って普通だ、しかし、彼の発する言葉の一つ一つが中村には特別に感じられていた。
「うん、そうする。 だから…、あの…、」
中村は何かを言いかけた、それは中村自身にも分からない。 思わず“何か”を言いかけたのだ。 意図してない自分の行動にハッとなる中村だったが、どうして良いかわからずに桐山から目を逸らしてしまった。 それを見た桐山は一瞬戸惑ったが、彼もまた中村と同様に自分でも驚く様な行動に出る。 ゆっくりとカウンターから出て、中村の前まで来る。 そのまま中村の両肩に手を乗せて中村の顔をじっと見た。 突然の事にびっくりした表情を見せる中村だったが、桐山はそのまま彼女にキスをした。それは一瞬の出来事だったが、二人にとってそれは永遠の様に感じていた。
やがて、桐山は中村を抱きしめてこう言った。
「ごめん。怒ったかな? もしそうなら二度とここには来てくれないよね? だったらせめて、もう少しだけこのままでいさせて。」
桐山は自分自身の行動に驚きながらも、きっとこの娘とは会えないだろうと悲観的になっていた。
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