5日だけの二人
「ああいらっしゃいませ。今日は一人ですか?」
桐山は普段通りの挨拶でこっちを見る。この時光一は、カウンターに座っている一人の客に気がついた。桐山と向かい合って座っていたその客は、光一のほうにゆっくりと振り向く。その人物を見た光一は、驚きのあまりかたまってしまう。それを見た桐山は何かを勘違いしたらしく、
「嫌だなあ、お客さんがいたくらいでそんなに驚かないで下さいよ。」
「あ…、いや、そうじゃなくて。」
光一が驚いたのはそんな事では無い。
「どうしました?」
「…」
「一応紹介しますね、僕の彼女で“中村雄子”さんです。」
光一はあらためて彼女を見る。間違いない、そこにいたのはミカの屋敷で働いており、既に亡くなっているはずのナカムラさんだったのだ。 彼女が最初光一を見た瞬間、目を細めてわずかに表情を曇らせたのを光一は見逃さなかった。しかし、
「はじめまして。中村雄子です。彼の先輩さんですよね?」
あくまで彼女は初対面を貫くつもりらしい。まあそれは別に構わないのだが、この時光一は一つの結論に至った。あまり考えたくない事だが、
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