5日だけの二人
勢い良く試着室に押し込まれた光一は、言われるがままに渡されたズボンを履く。
「もういい?」
ミカは光一の返事も待たずに試着室のカーテンを開ける。
「返事くらい待っててくれよ。 まあ、とりあえず履いてみたけど。」
光一の姿をマジマジと眺めるミカ。 そのまま靴を履かせて試着室の外に出す。
「どうした? 何かおかしいか?」
光一の周りをゆっくり回るミカに、光一は不安げに訪ねる。 すると、
「ちょっと動かないでね。」
そう言って光一の後ろから腰の辺りに手を回し、ベルトを緩めた。
「やっぱりね。 お兄ちゃんはさ、ズボンを履く時に引っ張り過ぎなんだよ。 もう少し下げるくらいが普通だよ。」
光一はどうにも落ち着かないのか、鏡をジッと見ながら後ろばかり確認していた。
「そうゆうもんなのか? まあ確かに街でよく見る若者は、みんなこの履きかただな。」
そんな光一を見ていたミカだったが、
「うん、これでしっくり来たよ。 どう? わずかな違いだけど、ファッション的には格段に良くなったと思うけど。」
満足感を前面に出したミカは、光一をその場に残し、シャツを物色し始めた。
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