5日だけの二人
結局、理由はわからない。 わからないのだが、何故か5日の朝だけは、いつもより早く目が覚めるのだった。
それからしばらくして、夏も終わり秋に入ったばかりの頃の事。
例によって5日の朝、男はいつものように電車の窓越しで彼女を探す。 しかしどうしたのだろうか? ホームに彼女の姿は無かった。 男は腕時計で日付を確認する。“今日は5日だよなぁ?”などと不思議に思っていると、ホームの端にある階段の降り口付近に、何やら人が倒れているのが見えた。 かなり距離があるので判別しにくいが、それは間違いなく彼女だった。
どうやら階段から落ちた様子、ゆっくりと起き上がり服の誇りを払っている。 だがしかし、周囲の人間は誰一人として彼女に手を差し伸べたりする者はおらず、男はひどくいたたまれない気持ちになった。 そして気がついた時にはもう、電車を降りて反対側のホームに向かっていた。 彼女が落ちたであろう階段、を一気に駆け下る。 そして彼女の側に近寄ってから、
「大丈夫か? どこか痛いか?」
と声を掛ける。
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