5日だけの二人
すると彼女は、男を見るなり首を傾げて、
「あれ? 5日の人?」
とつぶやいた。
その言葉に、男が何て返答したら良いのかわからず黙っていると。
「ううん、何でもない。 ありがとう、大丈夫だよ。」
そう言って立ち上がった。 足元にはソフトクリームが2つ落ちていた。 どうやら転んだ拍子に落としたらしい。
「落ちちゃった。 また、買ってこなきゃ。」
彼女はそうつぶやいて男を見る。
「わざわざ来てくれてありがとね、もう大丈夫だから。電車に戻らないと間に合わないよ。」
彼女はそう言って反対ホームの電車を指差す。男が乗って来た車両だ、しかしその直後、
「あっ…」
静かに電車が動き出した。 あれに乗ってないと会社には間に合わない。
「行っちゃったね?」
そう言って男を見る少女は、すこし申し訳なさそうな顔をしていた。
「行っちゃったみたい。 ああでも、気にしないでね、俺が勝手に降りたんだから。」
そうだよ、少し遅刻するくらい何て事は無いさ。 こう言っては何だが俺の勤務態度は至って真面目なんだ、これくらいは大した問題にはならない。そんな考えが男の頭をよぎる。
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