5日だけの二人
そう言うとミカはスタスタと浴場を出て行った。 独り残された光一は、とりあえず落ち着きたかったので、再び湯につかり冷静に今の状況を思い返してみる。 さっきミカは何を言いかけたのだろうか? そして自分は? あの時ミカに何を言いかけたのか? それは間違いなく…
「“好き”って言おうとしたな俺。」
思わず口に出してしまう。 どれだけ冷静に考えても答えはひとつだった。 だったらミカは? あの瞬間の俺は、ミカが間違いなく俺に告白するだろうと確信したけれど、今になって思えば根拠は何もなかったんだよな? まあ、こんな状況だもんな仕方ないよな。風呂場で二人きりなんてシチュエーションは、光一の人生においては初の経験だ。だから自分は冷静では無かったんだと自分に言い聞かせて風呂を出た。 脱衣場で服を着てから髪を乾かしていると、備え付けの電話が鳴った。 たぶん状況から考えてミカだろうと予想はできたので、光一はすぐに電話に出た。
「はい、もしもし?」
「あっ、お兄ちゃん? とりあえずこっちは大丈夫だからさ部屋に戻って来てよ、お姉ちゃんに紹介するから。」
わかった、とだけ返事をして光一は電話を切った。
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