5日だけの二人
光一はフェンス沿いにぐるっと歩いて敷地から出る。いろんな思いが頭の中を巡っては消え、やがてまた浮かび上がっては消えた。ミカの後をつけたのは光一自身の意志だったが、それはあくまで好奇心からだ、決してやましい気持ちではなかった。 しかし光一が遭遇した場面は、そんな言い訳等許されない物であり、いつまでも知らないフリを貫ける事でもない。 光一はゆっくりと階段を降りながら、これからの自分とミカの事について考えていた。その時である、ふいに光一の目の前に現れた人物に呼び止められる。
「あれ? 東堂君じゃないか? こんな所でどうしたんだ?」
その声に我に返った光一は、慌てて前を見る。 そこには光一の上司である森課長が立っていた。
「課長。ああ…、いや、ちょっと散歩を…」
さすがに業務時間中と言う事もあり、なんとも気まずそうに答える。
「そうか、まあいい。 あまりサボるなよ、それでなくとも最近表情が緩みっぱなしなんだからな。 気合い入れてくれ。」
森からの思いもよらない言葉に、光一は一瞬驚いた顔になる。
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