５日だけの二人

それから墓石の周辺を掃除して花を供えた。
「さて、そろそろ戻るか。」
意外とあっさりした森の態度に安心した光一は、それに続いた。
「そうですね、私もそろそろ外回りに戻ります。」
二人は持ってきたバケツや掃除道具を手に持って、ゆっくりとその場を後にした。 森は車で帰っていき、光一は徒歩で外回りの営業に向かった。
それから僅か数分後、寺院の前に一台の車が停車した、黒塗りで大きな車体のそれは、知る人ぞ知る高級車であった。やがて中から運転手らしき人物が降りてきて、素早く左の後部座席に回り込んでドアを開ける。 すると中から一人の老人が降りてきた。
「ありがとう、すぐに戻るからここで待っていなさい。」
そう言って寺院の階段を昇り始めた。
運転手はその後ろ姿に礼儀正しく深々と頭を下げる。 普通なら老人の階段昇りは危険だ。一緒に付いていくのが妥当であるだろう、しかし、そういった提案は全て老人に却下されるのだと運転手は知っていた。何故なら、老人がここに来るのはこれが初めてでは無いからだ。