5日だけの二人
 ミカは力無くつぶやいた、もちろんミカの呼びかけに答える者はいない、だけどミカは何かを感じとったかのように、
「そうだね、ありがとう。 きっとそれが一番だよね。」
そう言って頷き、その場を後にした。
【その日の夕方】

光一の親友で後輩でもある桐山の店に一人の客が来た。 もともと人通りの少ない場所に建っている上に、至って地味な外見もあって新規の客は非常に珍しい。 だいたいは常連客か、その紹介を受けた人物しか来店しない。 しかしその人物はたった一人で、全く躊躇する事無く店内に入って来た。
「いらっしゃいませ。 どちらでもお好きな席にどうぞ。」
珍しい事もあるもんだな。桐山はそんな事を考えながらも、慣れた対応でメニューと水をテーブルに運んだ。
「本日はご来店ありがとうございます。 ご注文が決まりました頃伺いに参ります。」
桐山が普段通りの台詞を残しテーブルから離れようとした時、
「…あなたのお薦めは、何かある?」
この質問に少しだけ桐山は嬉しくなった。 何故なら、普段この店を訪れる客に対し、桐山は一切のメニューを出さないからだ。
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