5日だけの二人
「う~ん…、わかりました。 ちょっと待っていて下さいね。」
そう言って桐山は店の入り口に向かって歩き出す。そしてそのまま外に出ると。ドアにぶら下がっている“営業中”の看板を裏返して“休業中”にした。 それから入り口付近の電気を消して戻ってくると、今度はカウンターの奥に入って行った。 数分してから戻って来た彼は、店の制服ではなく至ってカジュアルな服装になっていた。
「お待たせしました、では確認しますけどナスとトマトを使ったパスタで宜しいですね?」
ラフな服装で戻って来た桐山だが、口調はあくまで礼儀正しい。 すると客は嬉しそうな顔をしながらも、
「作ってくれるの? 本当に?」
ちょっと申し訳なさそうな表情をしていた。
「本来なら試作品を提供する事はありませんが、私の個人的な友人としてなら問題ありません。 だからご心配には及びませんよ。」
仰々しく頭を下げる桐山を見た客は突然笑い出した。
「あはははっ、面白い人だね。 友人なら友人らしく喋ってよ。 でも、ありがとう、今日は良い店に巡り会えたよ。」
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