絶対的愛情
「松井、話があるんだけどいい?」
「はい」
教授に呼ばれて、研究室の外に連れ出される。
冷たい廊下を進み、黙ったまま教授の背中を追う。
何の話だろう…特に心当たりがない僕は、緊張した面持ちを隠せずに教授の個室へ入った。
「座っていいよ」
「失礼します」
ソファに向かい合わせで腰を下ろす。
教授は、間髪入れずに僕に本題を切り出した。
「突然なんだけど、ドイツでのガン医療研究チームの人員募集がうちに来たんだ」
「ドイツ…ですか?」
教授は資料を机に広げて頷く。
そこには賞を受賞した事など、研究チームについての説明が写真つきで載っていた。
「私の知人がつくった研究所なんだ。この間の事でバタバタしただろうけど、私は是非松井を推薦したい。ずっと松井の夢だった、ガン医療の開発が出来るかもしれない良いチャンスじゃないか?」
「ありがとうございます…」
「返事はすぐにとは言わない。論文作成もあるだろうし…3月いっぱいには決めて欲しい」
「分かりました」
本当に、突然過ぎる話に何も感情が思い浮かばない。
何故、僕が?
疑念を抱いたまま個室を後にした僕は、渡された資料をロッカーにしまいに行こうと研究室とは反対方向へ向かった。
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