絶対的愛情
教授とは学生時代からお世話になっているが、特別贔屓されるような実績もない僕を推薦してもらえるなんて。
本当に自分でいいのか。行く行かないの前にそればかりが頭を占める。
「あれ?松井、お疲れ」
「あぁ、お疲れ」
ロッカー室に入ると、同僚の原田が鏡の前で白衣を整えていた。
「何その資料?」
「ん、ちょっとね」
そう言ってロッカーに入れようとした資料を原田に奪われる。まあ、原田にならいいかと原田の反応を覗った。
「え…これアレじゃん。梶井教授の知り合いがどうのって…」
「知ってたのか。さっき突然話されてさ…」
「すごいな、ドイツ行っちゃうのか?」
資料から顔を上げて僕を見た原田は、笑顔で素直に喜んでくれている様だが…
「あれ?どうした?」
思い悩んでいる事を隠せず顔に出ていた僕は、ため息と一緒に胸の内を吐き出す事にした。
「ピンと来ないんだよ。何故、俺なのか」
「んー…まぁ、この研究所内には確かに優秀な奴多いしな」
「そうだろ?ましてや彩美との報道で研究所に報道陣が押し寄せて大変な事態になった直後にだ。こんなすんなりと推薦が来るとは思えない」
原田は眉間にシワを寄せて、うーんと唸る。その姿は探偵のようで。大学に入ってからずっと心を許してきた友達だからこそ、真剣に悩んでくれる。
「まさかとは思うけど、まさかね。あれ、梶井教授って何歳だっけ?」
「さあ…?もう定年近いんじゃないか?」
「だ、よ、ね。ん、でもやりたい事なんだろ?前向きに教授が自分を評価してくれたって考えるしかないんじゃない?」
通称でもあり自称するナルシスト原田は、まだ鏡の中の自分を見て些細な襟元を整えている。
「そうだな、ありがと」
「よし、じゃあ仕事すっかな。今夜看護師との合コンあるんだよ。それを楽しみに頑張るわ」
「相変わらずだな」
パタンと閉まったドアに、原田を少し羨ましく思う。原田は細胞の研究チームでそれなりに活躍しているし、実績もある。
僕よりもよっぽど出来る研究者だ。
やっぱり心に引っかかる。
正直、行きたい気持ちは強い。
ガンで祖母を亡くしてから、この道に来た。
いつか、自分の研究で少しでも多くのガン患者の命を救いたい。その一心でここまでやってきた。
けれど、簡単にいくはずもなく。何年も失敗しては次…
近年ではアメリカやヨーロッパで、様々な開発や医療の進歩が進んでいく中、僕は小さな事すら何も成功していない。
ドイツ行きの話は、僕にとっておいしすぎる。
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