絶対的愛情
桜並木がずっと続いている土手を、一人で散歩していた。
やわらかな優しい色の桜が咲き始めていて、あと数日後には満開になるだろう。
梶井教授に、ドイツへ行くと伝えてから毎日がただ足早に過ぎていった。
日本にいるのも、今日が最後。
まさか自分がドイツに行くなんて、思いもしなかった。
瀬戸さんへの事を、一時の気の迷いだった…と思いたくない。
けれど、今日まで何もする勇気もなかった。
「俊介!」
「…彩美?」
黄色のトレンチコートに身を包んだ彩美が、近付いてくる。
「やっぱり、ここにいた」
「どうしてここを…?」
彩美は桜に負けないくらいに華やかに笑う。
「なんとなく、ここにいると思った」
「帰ったんじゃなかったのか?」
「俊介を見送ったらって思ったの…」
ドイツへ行ったら、彩美とももう会わなくなるだろう…。
「…まさか彩美に見送られるなんてな」
「また、会えるよ」
一緒に並んで歩き出した。
こうして歩いていると、学生の頃を思い出す。
まだ未来の事なんて何も考えずに、一緒にいられるだけで楽しかった日々。
「…懐かしいね」
ほんわかと温かな風が、優しく包む。
あの寒さが恋しい。
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