絶対的愛情


痛みを寒さのせいにしてしまえば、それで楽だった。


「ひとつ、聞いていい?」


「何?」


彩美は少し間を置いてから、瞳をふっと伏せる。


「一度、ドイツ行きを断った理由は?」


「ここにいたいって、ただそう思っただけだよ」


思い出すだけで、胸が締め付けられるような苦しさが襲う。


理由なんて、分かっているのに。



「驚いた…この話は俊介の全てになるのに。それを…断るなんて、私の知ってる俊介じゃないって…」


そして、今更この道を選択したことが誤っていたと気付く。


彩美と梶井教授が、繋がっているからこそ…


「だから教授が瀬戸さんに僕を説得するように話したってことか」


「何の事?」


こんな、惨めな思いを。

瀬戸さんを苦しめる事も、全部。


.

< 59 / 70 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop