絶対的愛情
★★★★★★
彩美といた土手から一気に街へ向かって走ってきた。
肩で大きく息をしながら、後ろを振り返ってみる。
さすがに彩美はヒールで追って来なかったが…。
焼けるような熱さで一気に汗が噴き出す。
こんなに走ったのは高校生以来かもしれないと思うと、自分の体力の無さに失笑した。
今すぐ、瀬戸さんに謝らなければ…
その思いでただ走ってきたけれど、こんな平日の昼間に会えるはずもなく。
公園のベンチに腰を下ろして、初めて瀬戸さんの番号へ電話をかけた。
留守電にメッセージだけでも…
コール音が耳元で鳴り続ける。
出るか分からない電話に、鼓動が速くなっていくのを感じながら…
「…ダメだ」
鳴らし続けた電話は、留守電にすらならず、諦めて終了を押した。
どっと疲れが押し寄せて、そのまま瞳を閉じる。
色々な音が聞こえてくるけれど、瞼の裏に見えるのは瀬戸さんの笑顔だった。
僕は、ただ瀬戸さんの脳に興味があったはずだったのに…
科学で証明されたあらゆる現象の理由を分かっているのに。
そんなの、ただの知識に過ぎない。
当事者になってしまえば、傍観どころかただ真っ直ぐに突き進むものなのだ。
「もっと早く気付いていれば…」
彼女を傷つけることもなかった。
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