猫の世界と私
数ある靴箱の中から迷わずに自分の靴箱の扉に手を掛けていた。


なぜ、この場所を知っているのか。

探すこともなく、迷うことなく、なぜここまでたどり着くことができて、手を伸ばすことが出来るのか。


結愛は首を傾げながらも、扉に手を掛け上履きと靴を入れ替えた。



「焦げ茶色のローファー…」



何か見覚えがあるような気がする。
けれど、何も思い出すことはできない。


既視感かと思うが、もう、そういったことも思い出せない。


これ以上思い出そうとしても、何も思い出すことができないことが分かっている結愛は、静かに焦げ茶色のローファーを履くと、外へ出る扉に手を掛け、外の世界へと足を踏み入れた。



「…っ…」
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