猫の世界と私
「未来、今すぐ戻って」

「戻るって…え…でも…」

「未来、あなたは生きてるの。そして、帰りを待ってる人がいる」

「……でも…私…どうやって戻ったらいいのか…分からない…」

「考える必要はないよ。目を閉じて、戻ることだけを考えればいい…」

「でも…結愛は…?」

「私は戻ることを考えても、戻る所はないよ。だって、もう生きていないんだもん。それに、私は瑛祐の記憶でしかないの。瑛祐の中で私は忘れられることはない。私の存在だけは生きていく。きっと私はいつか、瑛祐がいたという記憶だけが残って、後のことは忘れてしまう時がくる。瑛祐のことだけじゃなくて、私のことも。でも、それでいいの」

「どうして…」

「それが生きているってことでしょ。瑛祐は自分の時間を生きている。時間が経てば記憶があやふやになっていくのは当然のこと。時間が動き出したこの世界で、私は過ごしていくよ、この猫と…」



結愛は抱いていた猫の背中を撫でた。
猫は黄緑色の瞳を光らせ、結愛を見つめている。
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