猫の世界と私
-結愛-


そういうふうに、瑛祐は結愛のことを呼んでいた。


-結愛、笑ってよ-


そう言って、瑛祐は小さく笑っていた。


確かに…優しげな…声だった気がする。


笑顔、優しげ、そんな雰囲気だけが残る記憶の中。
思い出が美化されていることが自分でも分かる。
悪いことなんか思い出すこともない。キラキラとした思い出。


けれど、それが結愛の中にある、唯一の瑛祐の思い出でもある。



「嫌だな…いつかは忘れちゃうのかな…」



教室に差し込む夕日に視線を移し、遠くを見ながら結愛は溜息をついた。

瑛祐のことを思うと、心の奥が締め付けられるように痛い。
きっと、結愛にとって瑛祐は大切な人だったに違いない。


そう、きっと…


記憶が無くなっていく中で、徐々に瑛祐の記憶が薄く、そして消えていく。
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