猫の世界と私
瑛祐の顔は残念ながらもう思い出せない。
制服と思われるものを身にまとい、口元だけが笑っている。けれど、顔全体を思い出そうとすると、白い靄が掛かり、髪型も目元も輪郭も分からない。

ただ笑顔だということだけが分かるだけだった。
その笑顔も徐々に白く染められていく。
前の世界にいた時の記憶よりも、その白さは増していた。


けれど、ここは思い出の地。
微かだけど、思い出したことには違いない。


徐々に増えていく記憶と思い出。
それが過去のものであっても、結愛には不思議と嬉しく思えた。


忘れていくだけだと思っていた瑛祐の思い出が蘇っていく。


自然とこぼれた笑みに、結愛は恥ずかしく思えた。
誰もいない、そんなことは分かっている。
ただ、瑛祐との思い出は嬉しい反面、恥ずかしい気持ちもあった。


手で顔を覆い、深呼吸をすると、もう一後顔を上げた。
そしていつの間に現れたのか、目の前にいる人物。
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