猫の世界と私
「いいよ、私のことは結愛って呼んで」



期待した言葉だったのか、未来の表情が一気に和らぐ。
まだ自分が死んで、この世界に迷い込んだことに対する不安は表情に残ってはいる。けれど、一人じゃないことが、心に少しだけ安心感を与えた。



「未来と会う前までに、人に会ったことがないの」

「え?」

「つい最近は色々と新しいことがあったけど、その前は…私は一人だった。私以外に動いている者といったら猫くらい」

「猫?」



未来は見渡し、猫を探す。
その行動に、結愛も見渡し、猫を探した。

どこにでもいた猫たちの姿が一匹も見当たらない。

いや、どこにでもいた…?

常にいたわけじゃない。
思い出が蘇る場所。
そこにいた。


なら、猫はここにいるはずだ。
でも、猫はここにはいない。

そこには未来がいる。
< 49 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop