猫の世界と私
結愛にとってそれは、とても切なく悲しいことだった。



「忘れたくない…」



呟いたところで、またこの世界に迷い込めば何かの記憶は無くなる。
それは分かっている。
だからこそ、結愛は意を決した。



「探そう、彼を。彼に関する記憶を…」



胸に手を当てた結愛は、ゆっくりと深呼吸をすると、赤々と世界を染める夕日へと視線を上げた。

結愛は、この世界に何度も迷い込んではいるけれど、この教室から出たことは一度もない。

なぜか教室から出てはいけないような気がしたから。


けれど、記憶はどんどん無くなっていく。
彼の記憶が無くなる前に、彼を感じたい。
彼の存在を刻み込みたい。
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